まずはA代表

埼玉スタジアム2002に到着したのは五代夏子の君が代が始まる直前だった。

浦和美園からの道中、屋台村から漂う醤油、ソース、カレーの匂い・・・それらを振りきってスタジアムが見えてきた頃場内ではスタメン発表が行われていた。坪井慶介中田英寿中村俊輔・・・次々と予定通りの選手の名前が聞こえてくる。それまでに発表されたであろうDF陣も前日の発表通りである事は想像できた。
持ち物検査を通ったあと、FIFAアンセムが聞こえてきた。回りの人々が走る中、私はむしろゆっくりとその音に会わせテンションを高めた。

君が代の大合唱、日本コール、7年前と同じ空気が自分の回りを包み始めた・・・

試合の詳細に付いてはもう今更書いてもしょうがないので割愛したい。

オマーンが開始四分で時間稼ぎをはじめたとき、7年前に苦しめられた中東勢の戦術が蘇った。彼等はその体力とスピード、そして試合展開のうまさであの時も代表を苦しめた。
しかし、オマーンはあの時苦しめられた各チームほどの能力があったわけではない。スピードがあるのは8番のアルマイマニと17番のアルガイラニぐらい。20番のアルホスニは前線にいるだけだし、「オマーンの中田」と言われた10番のドゥールビーンはアレックスの対面で抑えられている。

厄介だったのはパスにもセンタリングにも妙な回転がかかっている事。アーリークロスがグングン曲がってくるのだ。宮本がそれを読みきれず何度かかぶっていた。

さて、この試合で私が一番腹を立てたのは選手がベストコンディションでなかったことである。
山田暢久は試合中、ずっと一貫して中途半端なポジションを取りつづけていた。高めのポジションを取りながらライン際を走る様子はない。むしろボールウオッチャーになっている。ディフェンスの際も縦を切るコースに入らず、坪井が必死にフォローしていた。
事前の報道で、38度の熱があるという情報があった。途中何度もその先入観を振り払おうとしたが、どう見ても熱で朦朧としている人の動きだった。

柳沢は前半15分までは非常にいい動きをしていた。途中から得意の動きが影を潜め、と間ってボールを受けたりパスに反応しない場面が出てきた。
宮本はラインを押し上げられず、ボールサイドは坪井に任せ、コーチングを中心にディフェンスしていた。

この3人が39度の熱を出しながら先発で出場し、そのうち二人が90分フルで試合を続けた事。これはチームとして管理が一切行われていない事の証明ではなかったかと思うのだ。

この試合で唯一良かったのは交代選手がそれぞれ試合に変化をもたらした事だろう。
久保が入る事で「高さ」を武器にする。という意思統一が出来た。後半開始から高いボールで幾つか効果的なチャンスが生まれた。
そして小笠原、彼が中盤で溜めを作る事で中田が前を向いてプレーできる状態が出来た。

鈴木。評価の低い彼だが、この試合の中で一番気持ちが入っていた事だけは確かだ。スローインになったボールを追ってカメラマン席に飛び込んで帰って時間を使ってしまっていたのは彼らしいご愛嬌だが。

いろいろと並べてきたが実は中田のコンディションの悪さが試合を作れなかった原因だった事は間違いないだろう。報道では前日練習で芝を短くカットするよう中田が提案したと言うが、試合開始から彼はピッチに足を取られふんばる事が出来ずにいた。パスの精度、相手を背負った時のキープ。全てにおいていい所が見えなかった。
また、フリーキックの際、自分が蹴りに行く姿勢を一度も見せなかった事も残念だ。チームオーダーがあっただろうし、彼が蹴った所で得点になる可能性は低いのだが、自分がチームの中心だという事をそういうポーズで示して欲しかった。

もうひとつ。試合中、日本ベンチに比較的近い所で観戦したのだが、一度もジーコの姿を見る事はなかった。
あの試合展開で、ベンチに座っていられる監督を私は信頼できない。まぁ呆れて立つ事が出来なかったのは私も同じだが・・・

とにかく、勝った。それだけは間違いない。しかし、得失点差による争いも重要な要素となる。実はこの予選では勝ち点の次が全体の得失点差ではなく、当該チーム間での成績が優先事項となっている。すなわちアウェイのオマーン戦で2点以上取られないことが重要になった。
もちろんジーコはそれを理解してアウェイでは守備的な布陣を引いてくれる事だろうと思うが・・・・・・・